
トカゲに限らず生き物を飼育していれば、まずは健康的に育てることを目標とし、上手く育てられるようになるとその生き物のベビーを見たいという気持ちになるのはごく自然なことでしょう。
メダカや熱帯魚なら個人レベルで繁殖に成功させて楽しむこともできますが、爬虫類の話になると繁殖に対して少々事前検討をしておかなければいけないことがあります。
まずは繁殖に成功して赤ちゃんが生まれたら大きくなるまで育てることができるのか?もし数が増えて手に負えなくなるようなら他の人に譲ったり販売したりすることもあるでしょう。
ただそこには知っておかなければいけないルールがありますので繁殖を行う前に必ず確認しておきましょう。
トカゲの繁殖を狙う前に
現在の日本では動物愛護管理法に基づき、爬虫類を販売する場合には動物取扱業責任者を置いて、動物取扱業者としての登録を行わなければなりません。
店舗を持たずにインタネットで繁殖した個体を販売する場合や、ブリーダーズイベントなどの即売会に参加する場合も例外ではなく、業登録が必要となるため、繁殖した個体を販売する目的があるのならば、まずは動物取扱業者としての申請を行う必要があります。
違反した場合にはしっかりとした社会的な処罰が課せられますので、その点に関してはあらかじめ下調べを行なってください。環境省または各都道府県にある動物愛護センターのホームページなどで確認ができます。
トカゲの雌雄判別
イボヨルトカゲやコモドオオトカゲでは単為生殖を行うことが知られていますが、そういう特殊な例外を除いて、普通はオスとメスが揃っていなければ繁殖することはありません。
繁殖を狙うのであれば、当然雌雄を最低1匹ずつは手に入れる必要がありますが、ほとんどのトカゲでは性差を見分けるのにコツがいり、熟練したプロでも間違うことがあるほどです。
一つ目の判断基準は、前肛孔と呼ばれる中央に穴の開いた鱗。後肢の裏側や総排泄孔の付近に並んでおり、その穴が大きくて数が多ければオスであるということがわかります。
ただし、種によっては雌雄供に判別しづらいものもいるので注意が必要です。また、そもそも前肛孔も持たない種もいるのでさらに厄介です。
二つ目の判断基準は頭部のサイズ。一概にオスの方が頭は大きく、簡単にいうとエラが張っています。
ただしこれは、成熟しきったサイズの場合で、しかも比較対象がなければ分からないことなので、判断が曖昧になってしまいがちです。
三つ目の判断基準は尾の付け根の太さ。
オスの場合、総排泄孔から尾の先端に向かってヘミペニスと呼ばれる生殖器が格納されており、その影響で尾の付け根が太くなります。
また、ヘミペニスの有無を調べるために、セックスプローブという器具を用いて判断することが可能ですが、熟練した技術がいることと、うまくいってもその判別が難しいことがあり、100%確実な方法とは言えません。
以上の3点がどのトカゲにも共通していえる雌雄差になっているのですが、どれも決定打にはならないため、あくまでも目安として捉えておいてください。
実際には、ボビングと呼ばれる繁殖行動やアームウェービングが観察できれば分かりやすいのですが、繁殖期以外にはなかなかそういった行動もとらないし、縄張り争いなどの興奮時には雌雄のとる行動が逆転したりもするので、いざ交尾を確認するまでは雌雄差がはっきりしないトカゲも多数いるということを理解しておいてください。
トカゲの繁殖の準備
無事に繁殖を成功させるためには、日常の管理が非常に重要となってきます。
特にメスでは十分な栄養が足りていないと、しっかりとした卵を産むことができないだけではなく、胎生種では母体の生命にまで危機が及びます。
また、だいたいどの種でも冬眠明けやクーリング明けが繁殖期となりますが、冬眠中やクーリング中には餌食いが止まることが多いので、秋口までにしっかりと太らせておくことが大切です。
繁殖に影響を与える光周期
繁殖を狙うにあたって、ケージ内の光周期に変化を持たせると良いでしょう。
トカゲたちは日照時間や温度変化、雨量によって季節の変化を感じ取り、それによって発情のスイッチが入ったり入らなかったりするので、こういう環境の変化は非常に重要なファクターとなります。
通常、夏の間は照明の点灯時間を10〜12時間に設定し、冬の間は8〜10時間にします。
繁殖に影響を与える湿度変化
トカゲが生息するほとんどの地域において雨季と乾季が存在し、それは毎年同じように変化するものなので、湿度の変化(雨量の変化)はトカゲにとって季節の変化を感じとるための重要なファクターの一つとなります。
飼育下では本当の雨を降らすことはできないので、実際の管理としては霧吹きを行うことになりますが、どの程度の量の水分をどのタイミングで供給するかはトカゲの種類によってそれぞれ違うので、工夫しながら変化を与えてみてください。
繁殖に影響を与える温度変化
トカゲが季節の変化を感じ取り、活動のサイクルを決定するのに最も重要なファクターとなるのが温度変化です。
明確な四季が存在する地域に生息しているトカゲでは、冬季には冬眠をさせることによって生殖細胞の動きが活発になり、春先に発情を促すことができます。
また、年中温暖な地域に生息し、冬眠を行わないタイプのトカゲでも、年間を通した温度変化というものは存在し、冬季に温度を下げて活動を不活発にすることで(冬眠とは違ってウィンタークーリングと呼ばれて区別されています。)
やはり生殖細胞の動きを活発化させることになります。
冬眠を人工的に行う場合には、生体が目覚めず、かといって、死んでしまわない程度の温度(具体的には5℃〜10℃くらいを維持します。
冬眠中はあまり温度変化がなく、とはいえ凍ってしまわないような場所で生体を保管する必要があり、南向きに置けば直射日光の影響を受けて温度が上昇してしまうし、北向きに置けば早朝の低温で凍ってしまう可能性もあるので玄関などの室内で最も温度が低い場所の低い位置に布などを被せてケージを置いておくのが最も確実です。
もちろん寒冷地に住んでいる人ならば、屋外での冬眠は考えないほうが無難でしよう。
冬眠ではなくウィンタークーリング期を設ける場合には、日本の一般的な家屋ならば保温球やサーモスタットを用いてゆるく暖めることで、理想的なクーリングを行うことができるはずです。
意図的にクーリングを行うつもりがなく、年間を通して一定の温度で管理をしているつもりでも、外気の影響を受けて飼育温度の差は必ず出てきますので、熱帯地方のトカゲなどでは特別に温度管理を意識しなくても勝手に季節の変化を感じ取り、繁殖していることが多いのです。
オス同士の闘争
ある程度の集団を作って生活しているトカゲの場合では特に、オス同士のコンバットは発情を促す要因となることが多いです。
しかし、飼育ケージ内のように狭い環境だと、弱いオスが逃げ去る場所がないため、最悪のケースでは闘争の末に殺されてしまうこともあるかもしれません。
通常は飼育下で、あえてオス同士を争わせる必要などありませんが、いろいろな手段をとってみても繁殖に成功しない場合の最終的な方法として、儀式的にコンバットを行わせることはひとつの手かもしれません。
その際には人間がしっかりと観察を行い、オスの興奮を誘えた段階ですぐにまた別々のケージに分けることができるようにしておく必要があります。